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福岡高等裁判所 昭和42年(ネ)253号 判決 1970年6月23日

控訴人(附帯被控訴人) 安田信太郎 外二名

被控訴人(附帯控訴人) 永井林産株式会社

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人ら(附帯被控訴人ら)は、各自被控訴人(附帯控訴人)に対し、金一九三万三、三二七円及びこれに対する昭和三八年九月二一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを一〇分し、その四を被控訴人(附帯控訴人)の負担とし、その余を控訴人ら(附帯被控訴人ら)の連帯負担とする。

本判決は、被控訴人(附帯控訴人)において各金四〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び「被控訴人の附帯控訴に基づく新たな請求を棄却する。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決及び附帯控訴に基づく新たな請求として、「控訴人らは、各自被控訴人に対し、金六五万円及びこれに対する昭和三八年九月二一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、次に付加訂正するほか原判決事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。

被控訴代理人は、次のとおり述べた。

一、控訴人らは、昭和三八年九月二〇日原判決添付第一、第二目録記載の山林(以下、それぞれ本件第一、第二物件またはこれらを総称して本件物件という。)を訴外段谷産業株式会社労働組合に代金七七〇万円で、訴外皆川隆次に代金一五万円で売却して右代金七八五万円を受領したから、原判決請求原因第三項中売却代金を右のとおり訂正する。

二、被控訴人は、控訴人らと本件消費貸借契約及び譲渡担保契約を締結するに際し、右契約に基く債権は不可分債権とすることを約した。

三、よつて、被控訴人は、附帯控訴として新たに請求を拡張し、控訴人らに対し、本件譲渡担保契約に基く清算金として、各自金六五万円及びこれに対する本件物件の売却処分の翌日である昭和三八年九月二一日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

四、控訴人らの後記第二ないし第四項の主張事実は争う。

控訴代理人は、次のとおり述べた。

一、被控訴人主張の前記第一項の事実中控訴人らが本件物件を主張の労働組合に売却したことは認めるが、その余の事実は否認する。

二、控訴人らは、昭和三六年一〇月一八日、被控訴人に対し、その主張のとおり金二五〇万円及び金一二五万円を各貸与し、右債権を担保するため、それぞれ被控訴人所有の本件第一及び第二物件の譲渡を受けたが、さらに、同月一九日、被控訴人に対し、金七〇万円を利息年一割五分、弁済期昭和三七年四月三〇日、遅延損害金年三割と定めて貸与し、この貸金債権についても本件物件を譲渡担保の目的とすることを約した。しかしてこれらの譲渡担保は被控訴人主張の如き清算型譲渡担保ではなく、弁済期の経過により担保物件の所有権は確定的に控訴人らに帰属する趣旨のものである。

三、仮に、本件譲渡担保契約が清算型のものであるとしても、被控訴人は、昭和三七年九月四日控訴人らに対し、本件譲渡担保契約から生ずる一切の請求権を放棄したから、被控訴人の請求は失当である。

四、仮に右主張が認められないとしても、次の各金員は被控訴人において負担すべきものであるから、本件物件の売却代金から右金員を差引くべきである。すなわち、

(一)  控訴人らは、被控訴人に対し、前記のとおり二口の貸金合計金三七五万円のほか金七〇万円を貸与し、右債権も本件譲渡担保契約によつて担保されるものであるから、右金四四五万円及びこれに対する貸付の日から弁済期である昭和三七年四月三〇日まで年一割五分の割合による約定利息金三八万九、三七五円、同年五月一日から控訴人らが本件物件の売買代金の支払を受けた昭和三八年九月二〇日まで年三割の割合による遅延損害金一八九万一、二五〇円。

(二)  控訴人らは、本件物件の売却の斡旋を訴外角田隆介に依頼し、その手数料報酬として昭和三八年六月三〇日同人に対し金三〇万円を支払い、漸く本件物件を売却することができたが、右支払金は右売却に要した必要経費であるから該金員。

(三)  被控訴人は前記の如く本件譲渡担保契約に基く一切の請求権を放棄したが、その際控訴人らが被控訴人をして右請求権を放棄させるために被控訴人に支払つた金五万円。

(四)  控訴人友岡が本件物件に対して有する三分の一の持分を他に売却したことにより納付した所得税金九万四、四六〇円及び控訴人香原が本件物件に対して有する三分の一の持分を他に売却したことにより納付した所得税金五万六、〇〇〇円。

(証拠関係)<省略>

理由

一、被控訴会社が昭和三六年一〇月一八日控訴人らから金二五〇万円及び金一二五万円を被控訴会社主張の約定で借受け、同日控訴人らとの間で、被控訴会社所有の本件第一物件を右金二五〇万円の借受金債務の担保として控訴人らに譲渡する旨の契約を、被控訴会社所有の本件第二物件を右金一二五万円の借受金債務の担保として控訴人らに譲渡する旨の契約をそれぞれ締結したことは、当事者間に争いがない。

二、控訴人らは、前記二口の貸金のほか昭和三六年一〇月一九日金七〇万円を被控訴会社に貸与し、右貸金債権を担保するため、控訴人らにおいて本件物件の譲渡を受けた旨主張するので、検討する。

成立に争いのない乙第八号証(証と題する書面)には、被控訴会社代表取締役永井俊策作成名義にて昭和三六年一〇月一九日付をもつて控訴人友岡宛に出資金として金五〇万円を矢野氏払、金二〇万円を登記引当とし、右合計金七〇万円を領収した旨の記載があり、原審における控訴本人安田(第二回)、原審及び当審における控訴本人友岡、当審における控訴本人香原はいずれも右主張に副う供述をしており、右証拠によると、控訴人らはその主張の金七〇万円を被控訴会社に貸与した事実を認めうるが如くである。

ところで、甲第一二号証の二、三(いずれも控訴人友岡作成名義の領収証)中控訴人友岡名下の各印影が同控訴人の印鑑により顕出されたものであることは、当審における控訴本人友岡の供述により明らかであり、右印影と同第一六号証(控訴人友岡作成名義の被控訴会社宛昭和三六年一〇月一九日付金七〇万円の領収証)の控訴人友岡名下の印影を対照すると、同第一六号証の印影が同第一二号証の二、三の印影と同一であることが肯認できる。右事実に当審証人角田通尚(第二回)の証言及び当審における被控訴会社代表者の供述を総合すると、同第一六号証は真正に成立したものであることを認めることができ、これに反する前記控訴本人友岡の供述は右証拠に照らして措信し難い。

しかして、右甲第一六号証、乙第八号証、成立に争いのない甲第三号証、前記証人角田通尚の証言、被控訴会社代表者の供述を総合すると、控訴人安田は、昭和三六年一〇月一九日被控訴会社に領収証の用紙二枚を持つてきて、被控訴会社の現代表取締役である永井喜多男に対し、「株価が暴落して控訴人友岡が大変損をした。税金対策があるので七〇万円の領収証を書いてもらいたい。その見返りとして控訴人友岡も同額の領収証を発行する。」旨申し向けたので、被控訴会社は内金五〇万円を矢野に払い、内金二〇万円を登記の引当てにして金七〇万円を控訴人らから借受けた事実がないにもかかわらず、永井喜多男は控訴人安田に請われるままに被控訴会社の当時の代表取締役永井俊策名義をもつて乙第八号証の領収証を作成してこれを控訴人安田に交付し、これと引替えに同控訴人から控訴人友岡作成名義の同日付金七〇万円の領収証(甲第一六号証)の交付を受けたものであることが認められるので、右乙第八号証は控訴人ら主張の金七〇万円の貸借があつたことの資料とはなし難く、控訴人らの主張に副う前記控訴本人安田、友岡、香原らの供述は、右証拠に照らして措信し難く、他に右主張事実を認めしめるに足る証拠はない。

三、被控訴人は、本件譲渡担保契約は処分清算型に属するものである旨主張するので、以下検討する。

成立に争いのない甲第一ないし第四号証、第七、第八号証、第一一号証、第一二号証の一ないし三、乙第二ないし第五号証、第六号証の一、二、第七号証の一、二、弁論の全趣旨により成立の真正を認むべき甲第五号証、原審における被控訴会社代表者の供述により成立の真正を認むべき同第九、第一〇号証、郵便官署作成部分の成立につき争いがなくその余の部分につき原審における控訴本人友岡の供述により成立の真正を認むべき乙第一号証、原審証人富田武雄、同原田勇雄、原審及び当審証人角田通尚(当審については第二回)の各証言、原審及び当審における被控訴会社代表者、原審及び当審における控訴本人友岡、原審における控訴本人安田(第一、二回)、当審における控訴本人香原の各供述(ただし、証人角田、控訴本人友岡、安田については一部)を総合すると、被控訴会社は、土建業を営む原田勇雄と共同で本件物件約二、三〇〇坪の内一、七〇〇坪余を宅地造成することとなり、昭和三五年一一月上旬頃同人及び角田通尚を通じて控訴人友岡に右工事資金の貸与方を申入れ、同月一〇日同控訴人から金二〇〇万円を借受け、右債権担保のため、被控訴会社所有の本件第一物件、第二物件の一部ほか本件物件外の数筆の山林に抵当権を設定し、即日右抵当権設定登記を経由したこと、さらに、被控訴会社は、昭和三六年一月二七日控訴人友岡から金五〇万円を借受け、右債権担保のため、被控訴会社所有の本件第二物件の内三筆の山林に抵当権を設定したこと、ところが右宅地造成工事進行中の同年四月、天野利明から本件物件につき強制競売の申立を受けたので、被控訴会社は、同人に右競売の申立を取下げてもらうため二〇〇万円の金員の貸与方を控訴人友岡に申入れたところ、同控訴人から今までの分もあるので本件物件を譲渡担保にするなら八〇万円だけ貸与する旨条件をつけてきたこと、そこで被控訴会社はこれを容れ、同年一〇月一八日、前記借用にかかる金二〇〇万円と金五〇万円合計金二五〇万円につき控訴人らとの間に前記当事者間に争いのない消費貸借契約及び右債権を担保するため本件第一物件を控訴人らに譲渡する旨の譲渡担保契約を、また新たに借受けることにした右金八〇万円と前記金二五〇万円に対する利息及び遅延損害金四五万円とを合わせた金一二五万円につき前記当事者間に争いのない消費貸借契約及び右債権を担保するため本件第二物件を控訴人らに譲渡する旨の譲渡担保契約をそれぞれ締結し、同月一九日、前記抵当権設定登記の抹消登記と控訴人らに対しそれぞれ本件第一、第二物件の三分の一の持分につき譲渡担保を原因とする所有権移転登記を経由したこと、右各譲渡担保契約につき被控訴会社が債務の弁済を遅滞したときは控訴人らは譲渡を受けた本件第一、第二物件を任意に処分し、その代金をもつて債務の弁済に充当することができる旨を約したことを認めることができる。しかして、右譲渡担保契約につき他に清算を要しない旨の特約のない本件においては、右譲渡担保契約はいわゆる処分清算型の譲渡担保契約であり、控訴人ら主張の如き当然帰属型の譲渡担保ではないものと認めるのを相当とする。

この点に関し、原審証人角田通尚原審における控訴本人安田(第二回)、原審及び当審における控訴本人友岡は、本件譲渡担保契約は、清算を要しないものである旨供述するが、右供述は前掲証拠に照らしてにわかに措信し難く、他に前記認定を覆すに足る証拠はない。

もつとも前掲証拠によると、被控訴会社側から本件貸金債務の弁済期の後である昭和三七年八月頃控訴人らに対し本件物件を金五五〇万円にて買戻したい旨の申出がなされたことがあるが、右買戻しの申出がなされたのは、被控訴会社が右貸金の弁済期に至るも元利金の支払をなしえないでいた折、右両者の中に入つて利益を得ようとしていた中村鎮雄が被控訴会社に対し本件物件を他に高価に買取るものがあり、この話がまとまれば被控訴会社のため少なくとも三〇〇万円は取つてやる旨虚偽の事実をもつて被控訴会社を申し欺いたことに起因するものであることが認められ、従つて、被控訴会社側から本件物件の買戻しの申出がなされたことをもつて、本件譲渡契約が少なくとも弁済期後は清算を要しないものとなつたと解すべきではない。

四、控訴人らは、本件譲渡担保契約が清算型のものであるとしても、被控訴会社は清算による残額の返還請求権を放棄した旨主張し、前掲乙第二号証(念書)によると、永井喜多男作成名義で昭和三七年九月四日付をもつて控訴人らにあてて小倉市大字蒲生字山田大谷九八七番地の一外一一筆の土地に関する一切の請求権を放棄し、後日何等の苦情等のないことを確約する旨の記載があり、右記載からみると、被控訴会社の代表取締役である永井喜多男は本件物件についてした譲渡担保契約に基づく一切の請求権を放棄したことを認めうるが如くであり、また前顕控訴人友岡、安田及び香原の各供述は右主張に副うけれども、右供述に前顕甲第五号証、原審証人富田武雄、同角田通尚の各証言を総合すると、中村鎮雄は本件物件を他に高価に売却して利益を得ようと企て、被控訴会社代表取締役永井喜多男に対し、本件物件の登記簿上の名義人は控訴人らであるが、これを他に売却して、後日被控訴会社から苦情が出た場合、買主としては迷惑するから、買主を安心させる意味で権利を放棄する旨の書面を作成してもらいたい、もし売却できないときはこれを取戻してくる旨申し向けたので、同人はこれを信じて乙第二号証を作成し、これを中村鎮雄に交付したこと、しかるに同人は永井喜多男から右乙第二号証の交付を受けるや、控訴人友岡に対し、永井は本件物件に関して今日まで約五万円余りの費用を使つているので、五万円を交付してもらえれば、同人をして本件物件に関する一切の請求権を放棄させる旨虚偽の事実を申し向けて乙第二号証を控訴人友岡に交付し、同控訴人から金五万円の交付を受けてこれを騙取したものであることを認めることができるので、右乙第二号証は控訴人ら主張事実の認定資料とはなし難く、控訴人らの主張に副う前記控訴本人友岡、安田及び香原の供述は右証拠に照らしてにわかに措信し難く、他に右主張事実を認めしめるに足る証拠はない。

五、しかして、控訴人らが本件第一、第二物件に対する各三分の一の持分を他に売却したことは当事者間に争いがなく、右売却日が昭和三八年九月二〇日であつて、同日控訴人らがその売却代金を受領したことは控訴人らの明かに争わないところである。

当審証人紫垣大八郎の証言により成立の真正を認むべき甲第一五号証、当審証人紫垣大八郎、同角田通尚(第二回)、同皆川隆次の各証言、当審における被控訴会社代表者の供述に弁論の全趣旨を総合すると、控訴人らは、本件第一、第二物件を一括して金七七〇万円にて段谷産業株式会社労働組合に売却し、その代金を受領したことを認めることができ、右認定に反する甲第一三、第一四号証、原審証人富田武雄の証言、原審における控訴本人安田(第一、二回)、被控訴会社代表者、当審における控訴本人友岡の供述は右証拠に照らして措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

被控訴人は、控訴人らは皆川隆次に対しても本件物件を金一五万円で売却した旨主張するが、前顕証人皆川隆次の証言によると同人は本件物件を買受けたことはないことが認められ、他に被控訴人の主張事実を確認するに足る証拠はない。

ところで、本件第一、第二物件を一括して売却した場合において、各物件につきそれぞれその価格が異なる等特段の事情の認められない本件においては、その売買代金は、第一及び第二物件の地積に応じ按分して定められたものと解するのが相当であり、そうだとすると、本件第一物件は、金四一七万二、七三五円にて、第二物件は金三五二万七、二六五円にてそれぞれ売買されたものと認むべく、控訴人らはそのうちからそれぞれの貸付元本及び利息損害金の弁済を受けることになる。

そうすると、控訴人らは第一物件の譲渡担保契約については、右物件の売買代金四一七万二、七三五円から貸付元金二五〇万円並びにこれに対する貸付の日である昭和三六年一〇月一八日から弁済期である昭和三七年四月三〇日まで年一割五分の割合による約定利息金二〇万〇、三一三円及び同年五月一日から右物件売却の日である昭和三八年九月二〇日まで年三割の割合による遅延損害金一〇四万三、八二九円合計金三七四万四、一四二円の弁済を受けることができ、残額金四二万八、五九三円が清算金として残存することになり、第二物件の譲渡担保契約については、右物件の売買代金三五二万七、二六五円から貸付元金一二五万円並びにこれに対する貸付の日である昭和三六年一〇月一八日から弁済期である昭和三七年四月三〇日まで年一割五分の割合による約定利息金一〇万〇、一五七円及び同年五月一日から右物件売却の日である昭和三八年九月二〇日まで年三割の割合による遅延損害金五二万一、九一四円合計金一八七万二、〇七一円の弁済を受けることができ、残額金一六五万五、一九四円が清算金として残存することになる。

六、次に控訴人らは、次に掲げる金員はさらに前記残額から差引くべきものである旨主張するので、考察する。

(一)  昭和三六年一〇月一九日付金七〇万円の貸金について。

控訴人らは、前記売買代金から右貸付金七〇万円の貸金債務を差引くべきである旨主張するが、右金七〇万円の消費貸借契約がなされたことの認めえないことはすでに説示のとおりであるから、この点に関する控訴人らの主張は採用するに由ないものである。

(二)  金三〇万円の手数料、報酬について。

当審証人角田通尚(第一回)の証言により成立の真正を認むべき乙第九号証、右証人、当審証人紫垣大八郎の各証言、原審における控訴本人安田(第二回)、当審における控訴本人友岡、香原の各供述を総合すると、控訴人友岡は、昭和三八年六月三〇日、隆介こと角田通尚に対し本件物件の売却方を依頼し、その運動費その他の費用として金三〇万円を交付し角田が本件売買の斡旋をしたことが認められ、控訴人らから段谷産業株式会社労働組合に対し同年九月二〇日本件物件が金七七〇万円にて売却せられ、同日その代金が授受せられたことは、前段認定のとおりである。しかして右運動費等として交付せられた金員が本件物件を売買するに必要且つ適正なものである限り、処分清算的譲渡担保契約の性質上右金員を債務者において負担すべきものと解するのが相当であるが、角田に対する本件売買の斡旋依頼が法律上当然に受任者に報酬請求権を付与する性質のものか否かについては、本件全証拠によるもこれを明かにすることを得ないし、また控訴人らが角田との間に任意に報酬契約を締結したとしても、本件物件を転売するためには客観的に第三者の斡旋を必要とするものであつたこと及び角田に対し支払われた金員が報酬として必要且つ相当のものであつたことを認めしめるに足る証拠がないので、右金員を実質的に被控訴会社の負担に帰すべき費用とすることは相当でなく、従つて本主張は採用することができない。

(三)  請求権放棄の際に支払つた金五万円について。

控訴人らは、昭和三七年九月四日被控訴人に譲渡担保契約に基く一切の請求権を放棄させるため被控訴人に対し金五万円を交付したから、右金員を前記売買代金から差引くべきである旨主張する。

しかしながら、右金五万円は本件物件を他に売却して利益を得ようとした中村鎮雄が、被控訴会社に関係なく、控訴人友岡に対し虚偽の事実を申し向けて、同控訴人から金五万円を詐取したものであることは、前段認定のとおりであり、右事実によれば、右金五万円は、本件譲渡担保契約に基づく売却代金から差引くべき性質のものではないから、右主張は採用するに由ないものである。

(四)  控訴人友岡及び控訴人香原の支払つた所得税について。

成立に争いのない乙第一〇号証の一、二、第一一号証の一、二及び四、当審証人小松原修の証言により成立の真正を認むべき同第一〇号証の三、第一一号証の三(第一一号証の三については税務署作成部分については争いがない。)、右証人小松原修の証言、当審における控訴本人友岡の供述を総合すると、控訴人友岡は昭和三八年度の所得税として金一八万四、六六〇円が課税され、同控訴人において右所得税を納付したこと、しかして控訴人友岡において本件物件に対する持分を他に売却しなかつたとすると、同控訴人に賦課される同年度の所得税額は金九万〇、二〇〇円で足りたこと、控訴人香原は同年度の所得税として金六万五、〇一〇円が課税され、同控訴人において右所得税を納付したこと、しかして控訴人香原において本件物件に対する持分を他に売却しなかつたとすると、同控訴人に賦課される同年度の所得税額は金一、七六〇円で足りたことを認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右事実によると、本件物件を売却したことにより、譲渡所得に対する課税として控訴人友岡は金九万四、四六〇円を、控訴人香原は金六万三、二五〇円をそれぞれ余分に負担したことになる。ところで、本件物件を売却したことにより右控訴人らが納付した所得税は清算型譲渡担保の性質上右控訴人らにおいて負担すべきいわれはなく実質上被控訴人の負担に帰すべきものであるから、控訴人友岡が負担した前記金九万四、四六〇円は全額を、控訴人香原が負担した前記金六万三、二五〇円については控訴人ら主張の金五万六、〇〇〇円の限度において本件物件の売買代金から差引くべきである。

そうだとすると、控訴人らは前記残額金四二万八、五九三円及び金一六五万五、一九四円右合計金二〇八万三、七八七円からさらに右金九万四、四六〇円及び金五万六、〇〇〇円を差引くことになり、差引残額金一九三万三、三二七円が清算金としてこれを被控訴会社に返還すべきものとなる。

しかして、前掲甲第一、第二号証によると、本件金二五〇万円及び金一二五万円の二口の消費貸借契約及び右債権を担保するために締結された本件第一物件及び第二物件に対する各譲渡担保契約に基く債権はこれを不可分債権とする旨の約定がなされたことが認められるので、前記清算金債権も不可分債権となるものと解すべく、従つて控訴人らは、被控訴会社に対し、各自金一九三万三、三二七円及びこれに対する本件物件を売却してその代金を受領した日の翌日である昭和三八年九月二一日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるものといわなければならない。

そうだとすると、被控訴人の本訴請求は、控訴人らに対し各自右に認定の金員の支払を求める限度において理由があるのでこれを正当として認容すべきであるが、その余の請求は失当として棄却を免れない。

よつてこれと趣旨を一部異にする原判決を主文第二、第三項掲記のとおり変更すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第九二条、第九三条、第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 江崎弥 松村利智 白川芳澄)

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